疑惑のグロス

日も少しずつ長くなり、時間の感覚が鈍って違和感を覚え始めるようになった。


日一日と、夏に近づいている。


まだ明るいうちに家に帰れるのはなんだか得をした気分だ。

オレンジから藍に染まって行く町並みを見ながら帰る、この季節が好きだ。




フローラル広瀬の店頭は今日も楽しそうな笑い声で溢れていた。

仕事で疲れきった身体を、都会のオアシスに求めているんだろうな。




「こんばんは」


二人のお客さんとの立ち話に忙しいおばちゃんに、軽く会釈だけした。


「おかえり、苑美ちゃん。

――ああ、山口さん、またお越しくださいね」


私が挨拶をしたタイミングで、帰るわ、とつぶやいたお客さんに挨拶をする。


手を振ってその姿を見送った後、ちょっとちょっと、と井戸端会議を始めるような素振りでおばちゃんが声を潜めた。

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