疑惑のグロス
「ねえ、由鷹と何かあった?」
……何もない。
あるはずがない。
「何かって、何?」
「――やあねえ。変な意味じゃないわよ。
喧嘩とか、してないかってこと」
ゆたへの暴言じみた私の物言いはいつもの事だ。
あれを喧嘩と言うのなら、ゆたとはほぼ喧嘩しかしていないことになってしまう。
「別に、何も。
っていうか私、つい一昨日だって、ここに上がってコーヒー飲んで帰ったじゃない」
彼と過ごした時間を、少しだけ思い出す。
切ない思いが込み上げてきて、慌てて記憶を撹拌(かくはん)した。
「そう……。ならいいけど。
由鷹ったらなんだか最近、元気がないもんだからさ。
苑美ちゃんと喧嘩でもしたんじゃないかって思って」