疑惑のグロス

「小松原さん。

悪いんだけど、交通費の申請書を二階の千野さんに持ってってくれないかな」


斜め前の席の門田さんが、書類の入った茶封筒を差し出しながら言った。

悪いんだけど、という言葉はついていても、既にこちらに封筒を差し出してるあたり、行って来いと命令されていることには違いない。


今年31歳、未だ独身の門田さんを見るたび、私は自分も将来こうなるんじゃないかってヒヤヒヤする。

まるで男には縁のない顔立ちの割に、使っている化粧品は、デパートのカウンターで美容部員と相談して月に一度買っているらしい。

そんなに化粧も上手じゃないくせに、いいファンデーションを使ってるってことが満足のようで、時々自慢している姿がまた痛々しい。


かわいそうなくらい、寂しいやつめ。

豚に真珠ってまさにこれよ。

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