疑惑のグロス
黒髪と、少し細身のスーツ姿でタバコをくゆらせる彼に、見とれるなという方が無理だ。
携帯を持ってたら、隠し撮りして毎日眺めたいほど様になっている。
大人過ぎて、とても同い年とは思えないわ。
その横で……子供のような笑顔を向けている女の姿が、嫌でも目に入ってくる。
後ろ姿から横向きになった時に顔を確認したけど、見たことがない女だ。
もしや……。
私の心臓が高鳴り始めたその時、彼の口元から出てきた言葉は針となって私を攻撃した。
「璃音ちゃん、ホントかわいいなあ」
……ああ。やっぱり。
あいつが……あいつが大塚璃音なのね。
昨日の夜、夢にまで出てきて私の恋路を邪魔した張本人と、まさかこんなところで遭遇するなんて!
悔しいけれど、顔立ちはやっぱり対抗できるようなレベルじゃなかった。
彼女が月だとするなら、わたしはその辺に落ちている石ころね。
噂されていた通り、美人というよりもかわいいという感じだ。