疑惑のグロス
「あの人、黙ってたらかわいい女の子だけど。
ちょっとさ、一位に選ばれて舞い上がってるんじゃない?
松原くんを見るあの目と鬱陶しいくらいのグロスは、なんだか誘ってる感じだったよ」
彼に取られるくらいなら、と、ゆたの気持ちも奮い立つことだろう。
私はわくわくしながら、次の言葉を待っていたのに、出てきたのは意外にも静かな口調だった。
「苑美ちゃん……松原さんのこと、本当に好きなんだね」
えっ?なんでー?
そりゃ確かに好きだけどさ……なんでそうなるのよ?
「ち……違うって!ゆたを思えばこそ……」
あわてふためく私を見ながら、ゆたはあぐらをかいていた足を投げ出して言った。
「璃音さん、そんな人じゃないよ」
コイツ……やっぱ許せない!!
ゆたの冷静な一声に、私の血が更にぐんぐん上っていくのが解る。
なんでかばうわけ?
男なんだからもっと押せ押せで行きなさいよ――!
心の声は私の中でだけ虚しく響き渡り、コードネーム『フラワー』は、早くも失敗に終わった。