疑惑のグロス

「大塚璃音(りおん)って子。知ってる?

それ以来、彼女は『魅惑のくちびる』とか呼ばれてるらしいよ」

「知らないなぁ。でも、そう言われるとどんな子か見てみたくなるね」


早坂は、パーマのかかった毛先を人差し指でくるくる弄び、大して興味を持っていないように見えた。


話に出てきた大塚という子と、一度だけ内線で話したことがあるのは、覚えている。

どんな顔をしているのか、脳内で何度か検索してみたけど、画像は一件もヒットしなかった。


「あたしも見たことないけど、聞くところによれば、美人系よりかわいい系だってさ。

なんてったって、アンケートの投票は、課内の男どもがほぼ全員、彼女に投じたらしいからね」


甲高いブリっ子声の上田のセリフに、一つのキーワードが含まれた途端、私の高感度センサーが鋭く反応する。

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