疑惑のグロス

ゆたってトロい奴だとばかり思ってたけど、けっこう周りをちゃんと見てるんだなあ。

こんな風に人間観察ができる子だなんて、今まで知らなかったわ。


「璃音さんは、北野さんのことをすごく好きだと思うよ。

一番近くで見てたオレにはよくわかる。

だから、北野さん以外の男性とどうにかなるなんて……璃音さんの性格からしてもまずあり得ないと思うけど」


……これって、励まされてるのか。

ようやく気付いた私は、じっとゆたの顔を見つめて言った。


「それ、絶対に絶対に、本当の話ね?」


小さい子がまるで、何度も親に約束の確認をするように、懐疑心いっぱいで尋ねる。


「うん。本当。

だから苑美ちゃん、もう泣かないでよ」


私は、ゆたからくまのぬいぐるみを取り上げると、耳を縮めたり引っ張ったりを繰り返し、しばらく落ち着かないままだった。

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