疑惑のグロス
9:仮病
少し強く言いすぎたという反省くらい、私にもできる。
気まずい空気を気にして、いつものバカみたいな話に切り替えるとすぐ、ゆたに笑顔が戻ってきたので、ほっと胸をなで下ろした。
ゆたの目が半分閉じかかってきたのを理由に、夜の会合はそろそろお開きにする。
カーディガンを羽織り、一応外まで見送りに出た。
フローラル広瀬の裏口へと入って行くゆたを確認すると、急に眠たさに襲われ、目をグシグシとこすった。
ふあーあ。なんだか疲れたな。
暗闇に大きなあくびをひとつ残し、家の中へもそもそと入った。
キッチンでは、残業でさっき帰ってきたばかりのお父さんが、随分遅い夕飯を食べようとしていた。
冷めた焼き魚を覆うラップ材をはがす姿は、何とも言えない哀愁が漂っている。
「おかえり。毎度のことながら、遅くまで大変だね」
頭のてっぺんは薄くとも、一応、大黒柱だからね。
みそ汁を注ぎながら、ささやかながらも労いの言葉を掛けた。