疑惑のグロス
「おう、わりいな。
そういえば由鷹くんの姿、久しぶりに見たなあ。
しばらく見ないうちに、随分といい男になって」
お父さんは、ゆたのことをとても気に入っている。
小さい頃からずっと、うちの息子になれと言っているんだ。
一説では、私がこんなにがさつなのは、男の子の誕生を願っていたお父さんが、娘として生まれた私を男の子のように育てたからだという。
……その『一説』を流したのはお母さんだから、かなり信憑性がある話だ。
私にとっては、まったくもって迷惑な話で、聞かされるたびに憤慨しているけど。
「なーにが。相変わらずよ」
ゆたのことを褒められると、どうしても全力で否定してしまいたくなる。
憎まれ口を叩く私の顔を見たお父さんは、酢の物のタコを箸でつまみ上げながら笑った。