疑惑のグロス

「早く由鷹くんが婿入りしてくれないかなあ。

毎日遅い夕飯も、数倍うまくなるだろうに」

「残念だけどたぶん無理よ。

私、広瀬家からは早く嫁に来てって言われてるんだから」

「アハハ、そうか。

広瀬さん家も、花屋をつぶすわけにはいかんからなあ」

「……っていうか、私はゆたとなんか結婚するつもり、これっぽっちもないんだから!」


お父さんは何かとこじつけては、私とゆたをくっつけたがる。

まったくもう。

自分のことだけしか考えてないんだから。

私にだって、男を選ぶ権利はあるっての。


いくら幼なじみだとは言え、男性と年頃の娘が、こんな遅くまで部屋に二人きりでいたことが、父親としてはどうしても気になるらしい。


ただしうちの場合は、何かあるんじゃないかと心配するのではなく、むしろ何かあることを期待しているのだ。

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