疑惑のグロス

お父さんのたこ焼きのような顔が、にやにやしだしたらもう、何を言っても無駄なことはよーくわかっている。


「……お風呂先に入るね」

「おう。ごゆっくり」


お母さんはとっくの昔に夢の中。

お父さんは仕事柄遅いことが多いから、こういった光景はさほど珍しくはない。


魚を美味しそうに目を細めて頬張っているお父さんに小さく手を挙げ、キッチンを後にした。




清々しい朝の日差しは、寝ぼけた身体をしゃきっと起こしてくれる気がして好きだ。

家から会社までの道のりは、さほど遠くはない。

小さい頃のトラウマで自転車に乗れない私は、運動がてら徒歩通勤をしている。

そのためにヒールは低めをチョイスしているし、日焼け止めも欠かすことはないほど完璧だ。




大通りにさしかかろうという手前で、ベルが小さく鳴ったと同時に元気な声が聞こえてくる。


「おはよー!」


自転車の影が、回転する軽やかなホイルの音と共に颯爽と私を追い越していった。

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