疑惑のグロス

ゆただ。


時々、こうして通勤途中に姿を見かけると、そうするのがお決まりになっていた。


通り過ぎると同時に、すーっと心地よい風が頬を撫でてゆく。


小さくなってゆく、ゆたの後ろ姿に釘付けになる。

手には、フローラル広瀬の包装紙に包まれた、数輪のカラーがかわいらしく揺れていたからだ。


……まさか会社にお花を、ホントに持って行くなんて。


今までも、もしかしたら持っていたこともあるかもしれない。

意識せず、気にも留めていなかっただけで。


今日は特に、お花の形が華やかで目立つ。

周囲を歩く人は皆、そこに興味のまなざしを向けていた。


……あんなの、ゆただからできることね、ご愁傷様。


おばちゃんの顔を思い浮かべ、ちょっぴりゆたに同情した私は、シャツの襟を立てて首をすくめた。

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