疑惑のグロス

田上さんは、さらさらと落ちてくる前髪を耳に掛けながら心配そうな表情を向けた。


「大丈夫? 今日は門番がいないし、ゆっくり行ってきなよ」


名字の漢字に掛けて、周りは皆、門田さんのことを『門番』と呼んでいる。

田上さんは、デスクの引き出しの中から整腸剤のビンを取りだし、手渡しながら笑った。


「あたしもよくお腹壊すんだー。

これ、飲んだらいいよ」

「あ……ありがとう」


受け取り辛いが仕方ない。

気まずくなった私は、薬瓶を手にして逃げるように課を飛び出した。


走るたびに、整腸剤の錠剤が瓶とぶつかって派手に音がする。

その度にウソツキ、と言われてるようで心臓に悪い。

極力その音をさせないように、かかとを地面につけたまま、早歩きで二階へと駆け下りた。

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