疑惑のグロス
こんな私に、今まで優しい笑顔で声を掛けてくれた人なんていなかった。
だから入社式のあの出来事が本当に嬉しくて。
もしかしてこの人なら、自分を女として見てくれるかもしれないって思った。
……悲しい、勘違い。
バカみたい、私って本当に何も知らないんだから。
でも、何度冷静に考えてみても、やっぱりいやだ。
あんな女に注意を惹かれてる彼の姿なんて見たくない。
たとえ、彼が私のことを好きにならないとしても、それだけは阻止しなければ――。
もはや、意地。
しょうもない、つまんない、意味のない、意地だ。
わかってるの。
でも、このまま黙って見ているなんて、今の私の選択肢には存在していない。
さっきまで、どうやっても止まらなかった涙が、嘘のようにぴたりと止まった。
人間って意外と単純だ。