疑惑のグロス

「ちょっとー、大丈夫?

あんまり遅いから、トイレで倒れてるんじゃないかって、探しに行こうと思ってたとこよ」


仕事の手を止め、田上さんが心配そうな顔で歩み寄って来た。

泣いて赤くなった鼻をごまかすように俯きながら、私は精一杯取り繕う。


「大丈夫。少し休憩しながら座ってたから……遅くなってごめんね」

「それはいいって。門番いない日くらい、ゆっくり仕事しないとさ。

でも小松原さんが具合悪いなんて話、あまり聞かないから心配だったわ」

「薬、ありがとう。助かった」


ずっと手に握りしめていたせいで、少し生ぬるくなっている瓶を手渡すと、私は自分の席へと戻った。


「はい。良かったら食べて。……って、お腹の調子良くないんだったね。

治ってからどうぞ」


そう言って、田上さんがバタースカッチを二つほど投げてくれた。

本当は大好きで今すぐ食べたいけど……仮病を使ってしまった以上、やむを得ない。

おあずけをくらった犬のように、よだれが出そうだ。

早く引き出しの中に片づけてしまおう。

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