疑惑のグロス

興奮で声が上ずらないよう、注意しながら静かに言った。


「でもさ、あの子……松原くんと仲がいいみたいだよ。

給湯室に一緒にいるのをしょっちゅう見てるって人もいるしさ。

もし彼氏がいるなら、花見の噂よりそっちのが心配だよね」


昔から、緊張すると声が裏返っちゃうチキンだけど、今日はうまく言えたわ。

後は田上さんがどう反応するかだ。

少なくとも、私よりは社内にネットワークを持ってるはずだから、ここから少しずつ広まれば私のシナリオが開始する。


「――へえ、松原がね。なかなかやるじゃない」


田上さんはキーボードを打つ手を止めて、にやり、と笑っただけだった。


そ……それだけ?


大げさなくらいに驚愕する姿を想像していた私は、少しがっかりした。

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