疑惑のグロス
「もう……いいじゃん、休みの日くらい……」
「まったく、育て方を間違えたかしらね。
……女の子のくせに、昼過ぎまで寝てるなんて」
「それとこれとを結びつけないでよ!」
お母さんは、自分がゆっくり寝ていられないから悔しくてこんなこと言うんだ。
羨ましかったら寝たらいいのに。
お父さんだって何も言わないよ、むしろ身体を休めなさいっていつも言ってるじゃない。
時々、疑問に思う。
お父さんとお母さんは、お互いのどこに惹かれたんだろうって。
お父さんは今も昔もあまり変わらないたこ焼き顔。
今はかなり薄い頭頂部、昔はその予備軍。
スタイルも顔もあまり良くない、というかむしろ悪い方だと思う。
お母さんは小言が多い。
昔は美人だったと言うお父さんの言葉が信じられないほどに、今は見る影もない。
料理もごく普通だし、おやつだって手作りのなんて殆ど食べたことがない。
小さい頃、友達の家でメイプルシロップのかかったホットケーキをいただいたときは本当に感動したんだから。
これって家でも作れるもんなんだ、って。
早速お母さんにお願いしたら、ちょっと嫌な顔をしながらこう言ったわ。
「うちには、作る為の道具が足りないからできないわ。ごめんね」
お母さんのぐうたらに騙されただけだったって気付いたのは、随分と後の話。