疑惑のグロス

「ありがとう。助かったよ。

お礼に今度コーヒーでもおごるから」


ゆたが差し出したフィカスプミラを手に、彼はまぶしい笑顔をこちらに向けた。


「松原さん。

良かったら、うちでコーヒー飲んで行きませんか?

苑美ちゃんも含めた3人で集まるだなんて、なかなか機会ありませんから」


「えっ?」


……いつからこんな配慮ができるようになったんだろう。

いつまでも子供だというイメージしかなかった私には、そんな言葉が言えるようになった姿は違和感でいっぱいだ。


「そうだな。じゃあ、お言葉に甘えようかな。

車、止めておいても大丈夫?」


店頭に2台ほどの駐車スペースしかないのを気にした彼に、おばちゃんは心配要らないわよ、と笑った。


「そんなに気にするほどお客さんなんて来やしないって。

それに、うちは車より徒歩のお客さんが多いしね」


大柄の身体を揺らし、嬉しそうな顔で、さあどうぞと促した。

< 91 / 130 >

この作品をシェア

pagetop