疑惑のグロス
間の持たなくなった私は、当たり障りの無い話題を切り出した。
「松原くん……今日はどこか行ってきた?」
休日だから、こんな質問をするのも決して不自然ではないだろう。
もしも、大塚とデートしたことを内緒にして適当にごまかしてくれたなら、私にもまだチャンスはあるような気がした。
ヨークの切り替えにパイピングが施された、黒いウエスタンシャツの袖を折りながら、彼は静かに笑って見せた。
「実はさ、デートだったんだ。
残念ながら相手は彼女ではないんだけどね」
悲しそうに笑顔を作った彼、そんな姿もやっぱりカッコイイ。
――ずるいよ。
そうやって私に素敵なところばかり見せるくせに、頭の中は大塚のことばかりで……。
相手が誰なのかもすべて知っているのに、知らない振りをするというのは辛い。
できることなら大きなため息をつきたかった。