疑惑のグロス
ゆたには給湯室での出来事を話していなかったのに、私の表情でそれが誰とのデートだったのかを察知したようだ。
「そうだったんですか。
わざわざそんな中、うちに寄ってもらってありがたいです、アハハ」
一生懸命話題を切り替えようとしてくれているのがわかる。
自分で振った話題のくせに、私、もう少しで泣きそうだよ。
お願い、早く別な話に変わって――。
「ところで、松原さん。
苑美ちゃんとは部署も違うのに名前知ってるなんて、仲がいいんですか?」
予期せぬ言葉に思わず顔を上げると、ゆたは松原くんにわからないように、眉を少し上げて笑って見せた。
「ああ。オレら、同期だからね。
小松原さんとは、入社式の時に席が隣だったんだけどちょっとしたハプニングがあってさ。
その時の表情と胸元に見えた名札で、小松原さんのことを覚えたよ。
名字もオレと一文字違いだから、インパクトも強かったしね」
「お……覚えてくれてたの?」
慌てて声を発したせいで、声が上ずる。
思いもよらぬ出来事が起こると人間、かなり動揺するものだ。