疑惑のグロス
「もちろん。まさか、小松原さんの方がオレのことを覚えてないとか?」
「そんなわけ……ない……」
「アハハ。だよね。だとしたらオレ、ちょっとショックだもん。
部署の配属が決まってからは階も違うし、なかなか姿も見られなくなってさ。
時々さ、オレ宛に内線掛けてきてくれるじゃない。
その時にも『元気?』くらい、雑談したいと思うのに、小松原さんったらすぐに電話切っちゃうから」
言葉が出ない。
こんなことって、あるんだろうか。
相手にも自分の存在すら知られていない、ひっそりとしたひとりよがりの恋だと思っていたのに。
彼は……ちゃんと私のこと、覚えていてくれた。
さっきとは違う意味で、涙が出そうだ。
ゆたは嬉しそうに笑って見せたけど、それがまた私の涙を誘う。
もう、ギブアップ。