疑惑のグロス
「――ごめん。
お母さんからメール。急用できたから帰れってさ」
携帯を開いて、画面を操作するフリをする。
ゆたが心配そうな顔をした。
メールが嘘だってわかったのかもしれない。
けれど、ここにこれ以上いたらもう、泣いてしまいそうだった。
「そっか。残念だな。
あれ以来、初めてじっくりと小松原さんと話せる時間がせっかく持てたのに。
また今度、良かったらお茶でも飲もうよ」
彼の笑顔は、また私の心を痛めつけた。
痛みに堪え、にじむ涙をごまかすと、じゃあ、と一言残してゆたの部屋を後にした。