疑惑のグロス
13:同じ気持ち
「タバコありがとうな。ちょうど切れるところだったから助かったよ」
居間に入る足音に気付いたお父さんが、読んでいたゴルフ雑誌から顔をあげた。
「苑美は気が利くな。女の鏡だ、アハハ」
……ったく、調子のいい。
男の子のように育てておいて何を今更って感じよ。
近頃は女として意識させたいのか、何かにつけてこんなセリフを投げ掛けてくる。
もう遅いっての。
幼少時にオトコオンナとインプットされてから、私の脳ミソはそれに従って生きてきたわよ。
久しぶりに好きな人が出来ても、なかなかうまく行かなくてさ。
それもこれも女の子として大切に育ててくれなかったお父さんのせいだ。
いつもなら、間違いなくそれを言葉にしてぶつけているところだけど、今日の私はそうはしなかった。
――オトコオンナに育てられたからこそ得たものもあるから……ね。