舞い降りた羽
扉を開けると、怖いくらい満面の笑顔をした侑子の顔。





「蝶凛、早く着替えてっ。
行くところがたくさんあるんだからっ。」





相変わらず、テンションの高い侑子。



ああ……。近くにあるジムに行きたいな。



あの夢を見てしまったからか、侑子のテンションについていけない。



まるで魂が……。





「蝶凛?
なんだか、魂が抜けたみたいになってるわよ。」



「うん。私も思った。
ちょっとシャワー浴びて頭冷やしてくる。」



「う、うん……。」





脱衣所までの距離が遠く感じる。



熱でもある……わけないか。



――気持ちいい……。



ふと、彼のメモを思い出した。



『黒き蝶から青き蝶へ』





「痛っ!」





胸元にピリッとした痛みが走る。



見ると、長い時間をかけて治りかけていた火傷が、当時のように蝶が描かれていた。



何故、再び蝶の形が浮んできたのかということよりも、後悔でいっぱいになった。





「ごめんなさい。ごめんなさい……っ。」





シャワーを浴びる音が響く。



胸元の痛みは既にひいていたけど、心が悲しかった。



愛し合っていた2匹の蝶を助けられなかった。



私がお父様の言うことを聞いていれば、あんなことにはならなかった。





「蝶凛、泣いてるの?」



「な、泣いてなんかないよ。
目に睫毛が入っちゃって痛くて。」





咄嗟にそう答える。



さすがにそれはきつい言い訳だった。



侑子にバレているのは、なんとなく分かった。



でも、侑子は何も問わなかった。
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