舞い降りた羽
――――今日、彼と赤い彼岸花が咲いている川へ行った。



燃えるような空が広がっていた。



少女は彼岸花を一つ手に取り、少し離れた場所にいる彼に向かって言った。





「貴方は知っていますか? 彼岸花の花言葉を。」



「さぁ……。
お嬢様は知っているのですか?」





少女は俯いた。



そして、親指と人差し指で彼岸花の茎を転がしながら、寂しげに言った。





「『情熱』、『独立』、『再会』、『あきらめ』、『想うはあなた一人』、『また会う日を楽しみに』そして、『悲しい思い出』……。」





少女の頬を涙が流れていた。



それに気付いた少女は彼岸花を口に銜えた。



彼は少女の行為に驚いたが、止めなかった。





「お嬢様は強がりですね。」





声を殺して、泣くために毒草を口に銜えるなんて。と後付けする。



夕日が沈む中、少女は彼岸花に囲まれながら、毒草を口に銜えながら、泣き続けたのだった。





「お嬢様、見て下さい。
黒アゲハとモルフォ蝶ですよ。」





それまで口に銜えていた彼岸花を手に持ち、蝶を見る。



黒と青の蝶が華麗に飛び交い、それはまるで踊っているようだった。



飛び疲れたのか、黒アゲハは彼の元へ、モルフォ蝶は少女の元へ降り立った。





「お嬢様。
ずっと私のお傍にいてくれますか?」





その声に少女は顔を上げ、彼を見つめた。



少女の瞳には切なそうな彼が、彼の瞳には悲しそうな少女が映っていた――――





……夢。



どうして昔のことを?



――ああ。七原さんのお店を出る時にぶつかった人のネックレスを見たからか。



もう一度、夢を思い出す。



「ずっと私のお傍にいてくれますか?」



「はい。」と返事をしたかった。



でも、言えなくて……。



白いベッドの上で、白いシーツを被って、声を殺して泣いた。
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