き み と
―――――*




「これから、どうしますか?」



もう街も一通り回って、
大きい通りからはずれた
川沿いを歩いている。


先輩は首を傾げる。


…俺が決めるしか無いな。



「…帰りますか。」



すると先輩は一回頷く。


あんまり喋りすぎもうるさいと思って
黙って歩くことにした。





先輩は歩幅が小さい。


俯いてちょこちょこ歩く。


俺もそれに合わせるけど
どうしても速くなってしまう。


それで後ろを向くと、はっとして
駆け足でまた俺の隣に追いつく。



…すげー可愛い。




―――告白するまでは

物静かで大人な人なんだろう、
とか勝手に思ってたけど


付き合ってみたら

とても口下手な
可愛い女の子だった。




…それで少し
近づけた感じしてたんだなあ…。




実際は近づけてなんかいなくて


先輩はどこかで壁を作っていて


一定の距離から

俺を近づけようとしない。



どうしたら俺の気持ちが伝わるんだろ…。



一回ため息をついて、
隣にいる先輩を見――。







「先輩!?」






先輩が、いない。






振り返ると、だいぶ後ろで
先輩が看板とにらめっこしていた。



「先輩。」



駆け寄ってみると、先輩が見ていたのは
小さな美術館の前に置かれた物。


知らない外人の画家の名前が
たくさん書いてあって、
先輩は目を輝かせながら見つめている。



「入りますか?」



俺に気づいた先輩が振り返る。


「…いい…の?」



頷くと、今日やっと先輩が
心から笑ってくれた気がした。
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