き み と
手を伸ばせば、先輩に触れられる距離。
この手で
先輩を抱きしめることもできる。
だけど
「…先輩。」
触れてしまえば
崩れてしまいそうな
壊れてしまいそうな
そんな先輩に
俺が、できる こと。
「先輩は…一人じゃない。」
俯いたまま、ぴくりともしない。
「友達がいる。
おじさん…透さんがいる。
頼りないけど、
俺だって…いるよ。」
俺は、おそるおそる 手を
先輩の頭に優しく乗せた。
「寂しかったら、いつでも呼んで。
先輩のためだったら、どこでも行く。」
ゆっくり先輩の頭を撫でると、
先輩は顔を上げて
濡れた目で俺を見上げた。
小さく息を吸うと
「………ありがとう………。」
と、少しだけ頬を赤くする。
その一瞬の表情が
あまりに綺麗で 可愛くて
ちょっとやばい(理性が)と感じた俺は
素早く先輩の頭から手をおろした。
「帰りましょうか。」
「…うん。」
先輩は頷くと同時に
俺に返事をする。
大きな絵を背にして
美術館を後にする。
帰り道でも
俺たちの会話は途切れることはなかった。