き み と

やれやれ、と言った表情で、
俺はため息をつく。



(亮太って、あいつのこと好きなんじゃないのかよ…。)



そんなことを考えながら
また教室を見回していると、



「…アオイ…君…」


「はいっっ!」



後ろからいきなり先輩の声がした。



「先輩…」



その姿を見て、俺は安堵と
少しの残念な気持ちを込めたため息をつく。



「?」



キョトン、とする先輩は

さっき俺が話しかけられた人と同じ様に、
制服にエプロンをしていた。



「遥香ちゃんが……アオイ君がいる…って……。」



さっき俺に話しかけたのは
遥香さんと言う人らしい。

………確か美術部の部長で、
先輩の話にもよく出てくる。



「あぁ!遥香さんにお礼言っておいてください。」



先輩は一回頷く。



「……先輩は、着ないんですね。」


「恥ずかしくて……断った…の…。」



先輩は俯く。

実を言うと、
先輩が着ていなくてよかったと思う。



先輩は可愛い。



だから、そんな可愛い格好を
している姿を他の男に
見せたくなかった。



「着てなくても…エプロン、可愛いです。」



サラっと言った後に
自分で自分に驚く。

思わず顔が火照る。


だけど、俺よりも言われた先輩の方が
俯いたまま耳まで真っ赤になっていた。


そんな先輩が可愛くてたまらない。



「………アオイ君のクラス…は
……何…やってる…の…?」



先輩は照れを必死に抑えて、
いつもより小さい声で
話をつなげようとする。



「お化け屋敷です。」



「ごめん…ね?…忙しくて…
どこにも……いけない…から…。」


「いーえ。がんばってください!」



俺が笑って言うと、
やっと先輩が顔を上げて頷いてくれた。
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