き み と

涙が出そうになるのを
必死で堪えた。




絵と向き合う 小さな体。




初めて彼女を見たときと



同じ光景。







ただ、そこにある、

先輩が見つめる 絵 が



学校祭で展示されたものに
変わっていた。







あの うしお という、絵。






「…先生がね…替えてくれたの……。
こっちの方が……好きだ……って……。」








こっちを向かずに




絵に話しかけるように





先輩は呟く。







「……ごめんね。何も…気づかないで……。」







俺の足は固まって



もう、踏み出すことができない。







「私なんかと…一緒に…いてくれて………ありがとう………。」







先輩の肩が、小さく震えている。









「もう…無理なんて…しなくて……いいから……ね。」









言葉を返したいけど



のどに詰まったように

口からでてこない。








「だから……………―――」









ゆっくり





ゆっくりと振り向いたその顔には








表情が、ない。








「………さようなら。」











訊いたことのない




先輩の





感情のない



澄み切った、声。











その声が




顔が





背中が






俺を全否定している気がした。
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