き み と
「おい、もっとちゃんと食えよ。」
「んー。食欲ねえ。…帰ろっかな。」
俺は携帯を適当にいじりながら答える。
普通にしていると思っても、
俺の心と体は情けないくらい軟弱だった。
「……お前―――。」
「よし、俺帰るわ。適当に言っといて。」
亮太の言葉を遮って鞄を手にする。
あのことを訊かれると思って
顔を合わせないように。
「逃げんのか。」
「は?」
驚いた。
いつもチャラチャラしてる亮太の
真面目な鋭い声。
「女に振られたくらいで、情けねぇな、お前。」
「……黙れよ。」
「桜井から聞いた。無理して柊さんを傷つけてたのはお前なんじゃねぇの?」
「………黙れ。」
「で、辛いから何もせずに逃げんだろ。蒼井がここまで女々しいとは。」
「………黙れって言ってんだろ。」
頭は熱くなっているけど
口には出さないようにする。
「やだね。まぁお前の好きってのはその程度だったってことか。…どうせ柊さんが歩いていくの、黙って見てたんだろ?俺だったら絶対追いかける。」
「お前に俺の気持ちなんて分かんねぇよ。」
「分かる訳ねぇだろ。………取りあえず、見損なった。」
言い返す言葉が無くなって、
俺は乱暴に戸を開けて
教室を後にした。
自分でも情けないと思う。
でもあの先輩を見ていたら
俺は、何もできない。
俺は先輩が好きだから。
………好きだから………?