き み と
そこから顔をのぞかせたのは
俺が予想もしなかった姿。
先輩の、叔父さんの…
「透…さん…。」
前、一度だけ会った、
多分20代の大人の男の人。
「陽奈なら、今は無理だよ。」
真面目な顔で
俺を突き放すように言う。
多分この人は、全部分かってる。
「あ―――……。」
為す術がない。
「……陽奈が……泣きながら電話して来たんだ…。」
俺はその光景を思い浮かべると、急に鼓動が速くなる。
「俺のこと頼るなんて、久しぶりだったんだ。」
透さんが俺を見る目は冷たい。
だけど俺は
絶対に逃げ出したりしない。
その位の覚悟は、ある。
「あんなに泣いてる陽奈……初めて見た。」
そして透さんは目を伏せた。
「君のことは責めない。……だけど…陽奈のことを傷つけるなら、
これからは関わらないでほしい。」
言っている透さんも
心なしか辛そうに見える。
俺は一回息を飲み込んだ。
「はい、分かりました…―――」
一瞬、それを聞いた透さんの眉が
ピクリと動く。
「って簡単に言えるほど、諦めよくないんです、俺。」
はっきりと
はっきりと 言う。
「弁解はしません。悪いのは…俺ですから。
でも、諦めたくないです。
そんなにすぐ諦められるほど俺の気持ちは軽くないです。」
透さんの目は伏せたまま。
「先輩に振られても諦めない覚悟はあります。だからせめて俺と向き合ってほしいんです。話を…聞いてほしいんです。」
俺は、開けられたままのドアの向こうへ
聞こえるように、
わざと声のボリュームを上げる。
「先輩が俺と向き合ってくれる 気になったら、聞いてほしいことがあります!それまで俺、ずっと待ちますから!」
返事は当然の様に、ない。
だけど、きっと届いていると思った。