き み と

「それじゃあ、失礼しました。いきなりすいませんでした。」




透さんに礼をして、先輩の家を後にする。



もう、悩むことは何も無くなっていた。






戸の閉まる音が聞こえなくて、
不思議に思って振り向くと、
透さんが俺を見ている。



そして一回、優しく鼻で笑う。


「君みたいな奴、嫌いじゃないよ。」



そのまま手をひらひらさせて
玄関のドアを閉めた。



俺は向き直って、来た道を辿る。








頭に浮かぶのは
やっぱり先輩のことばかり。







最初はただの一目惚れ。


ただ見ていただけの存在。




そんな人が



こんなに俺の人生で




一番大切な人になるなんて


思いもしなかった。










先輩が、好きだ。









これが、俺の紛れもない事実。
< 54 / 76 >

この作品をシェア

pagetop