き み と


不振気な俺の問いに
小さく声を出した。



「潮のこと……見てる。」





その目線の先には

人の中でぼーっと足を止める




先輩の 姿。





「…先輩…!」





俺と目が合うのと同時に

先輩は逆方向に逃げ出す。




「潮!」




そして差し出される亜美の手。



「私…捨てとく!」




「わりぃ!」





笑顔の亜美にゴミ袋を手渡すと、
俺は全速力で走り出した。



「潮!頑張れーっ!」






亜美に後ろ手を振る。





ごめん


あと



ありがとう


の 意味を込めて。









先輩と俺の距離は元から結構あって、
しかも先輩も走るから
追いつくのが困難だった。






そして先輩の背中が見えた時。




「先輩!」




それで ふと



遥香さんの言葉を思い出す。




『陽奈にとって名前って、
すごく大切なものなんだよ。』





校舎裏の大分奥まで走り続けて
人影も少なっていく。






『だから大切な人は名前で呼びたいし、
自分も呼ばれたいの。』






先輩との距離が
だんだん、少しずつ縮まる。






『だから、呼んであげればいいよ!
絶対、喜ぶから。』






必ず届くように
大きく息を吸って











「………陽奈!」







叫んだ。







俺のその一言で
先輩は嘘のようにピタリと足を止める。






肩で息をする 背中。




小さな 小さな 背中。







俺は膝に手を突いて荒く呼吸をする。





でも今は走った鼓動よりも
先輩が近くにいるという鼓動の方が

ずっと 強い。









「……俺、もう無理。」
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