き み と

「ねぇ、蒼井。」


「何?」




携帯の画面を見つめると
撮った写真に写る 絵 は、

まるでその枠には
おさまってくれないみたいに


真っ黒だった。




「蒼井、高校入ってからなんか…変。」


「俺が?」


「…心ここにあらず、って感じ。」



桜井に言われて気がつく。

そうだったかもしれない。



「中学の時はもっと明るかった」


原因は大体分かっていた。

この心のわだかまりの所為、だな。



「多分、そのうち戻るよ。」


「何、それ。」


「…そのままのこと。」



また同じやりとりに
顔を合わせて笑った。



「ねぇ、蒼井。」


「ん?」



桜井は、少し躊躇いつつ、
俺に視線をよこす。



「潮、って呼んでも、いい?」


「……………。」


「い…嫌だったら…いいんだけど…。」



…名前、か…。



「……いいよ。」


「本当?」


「ん。」





「ありがとうっ。」



よく笑うな、と思った。



「じゃあ潮もあたしのこと、亜美って呼んでっ。」


「…え。」


「ね?」






「…はいはい。」


「ん、よろしいっ。」










俺の名前は


蒼井 潮(あおい うしお)、で


よく分からないこの名前が


俺は好きじゃなくて、











みんなは俺を


" アオイ " と 呼んだ。
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