幸せの天秤
「そういえば東条、レンリのところの新人ちゃんに会ったことある?」(英語)

マリアが聞く。

「祐太だろ。俺もこないだ、初めて会ったよ。あいつ、面白いぞ」(英語)

東条さんもビールを飲みながら答える。


「いいな~。あたしまだ、見たこと無いんだよね」(英語)

「マリアだって、これから裕太くんと仕事するんだからいつでも見れるよ」(英語)

「まぁ、そうなんだけど。あたし、耳が聞こえない子って
初めてなんだから不安もあるのよね」(英語)


あたしも耳の聞こえない子は、祐太くんが初めてだ。


「祐太と仕事するのは、マリアにとって大変かもな」(英語)

「やっぱり、そう思う?」(英語)

マリアも東条さんと同じことを思っていたよう。


「なんで?」(英語)

あたしは祐太くんと仕事をして大変だなんて思ったことはない。


「俺ですら会話らしい会話、祐太とちゃんと出来てないのに、
日本語が分からないマリアと耳が聞こえない祐太がどうやって会話するんだよ。
俺らみたいな業界なら、日常会話だけじゃなく業界用語だってある。
うちの会社でも、英語話せる奴は少ないのに」(英語)

普通に耳が聞こえていても、英語が苦手な人だっている。

なら、元々耳が聞こえない祐太くんにとってそれがどれだけ大変なことなのか
普通にマリアと会話が出来るあたしにはわからない。


「勿体ねぇな~、あんな才能あるなに」(英語)


東条さんの言葉が、あたし達と祐太くんの壁のように感じた。

あたしは煙草を吸う。


< 107 / 249 >

この作品をシェア

pagetop