幸せの天秤
「そろそろ抜けるか」

その言葉がどんな意味を持つのか、考えなくてもわかる。

「もう、いいんですか?」

「あぁ」

その言葉で、あたし達は会場を出て、ホテルの部屋と向かう。


エレベーターに乗るなり、胸を揉まれる。

「神崎さん、こんなところじゃ誰が見てるかわかりませんよ」

相手の機嫌を損なわないように言葉を選ぶ。


「あぁ。部屋にもう着くな」

そう言い、離れてくれた。


部屋に入るなり、後ろから抱き締められる。

あたし、自分を殺す。

これから、行為を始まろうとするときに神崎さんの携帯が鳴る。

「あぁ、、、あぁ、、、わかった、今から帰る」

神崎さんがそう言うと電話を切る。


「奥様ですか?」

「すまない」

「気にしないで下さい。また今度」

あたしの言葉を聞き、神崎さんは部屋を出ていく。



ホッとしてる自分がいる。

先の見えない毎日に、気付けばあたしも今年30歳。

これからもこんな生活していけるわけじゃない。

いつか、終わりにしなきゃイケないことくらいわかってる。


「あたしの人生っていつも中途半端だな」

なんか、笑えてくる。


あたしは部屋を出て、神崎さんと来た道を戻る。

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