幸せの天秤
動かないあたしの腕を引っ張り、地下の様な場所に連れて行かれる。


中に入ると部屋になっていて、家具はもちろん、トイレやシャワールームの様なものもある。


「ねぇ、その服脱いでくれない」

彼は急にそんなことを言う。



「な、なんで」

「レンリちゃんってバカ?また痛い目に会いたいわけ」

あたしは震える手で来ていた服を脱ぐ。


脱いだのを見計らって、真新しい服を渡される。


「他の男の匂い付いた服とか吐き気がする」

「、、、ご、ごめんなさい」

なぜか、自然と謝罪の言葉が口から出る。


「そうそう。僕純情な子が好きなんだよね」

満足そうな顔で言う。


彼はあたしを抱き寄せ、優しく頭を撫でる。

あたしは、彼にされるがままだった。


彼の気が済んだのか、近くにあった書類たちを見る。

「あれ、片付けてくれない?デザインの依頼なんだけど書く気、起きないんだよね」


あたしは書類に手を伸ばす。


「伊藤 哲也 様」と依頼書のところに書いている。

伊藤 哲也、、、建築家。

名前は聞いたことはあるが、作品自体はどれもパッとしない。

昔は雑誌に取り上げられたこともあったが、最近じゃ全く耳にすらしたことがない。


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