幸せの天秤
「伊藤哲也、、、」

「それ、僕のこと。知ってる?」

「、、、まぁ。どうして、自分で書かないんですか」


こんなに依頼が来てるのに、どうして書こうとしないんだろう。

あたしはこの依頼書を見て、書きたくてたまらない。


「書かないんじゃない。書きたくないんだ」

「どうして?」


「ガシャン」

彼はテーブルを蹴る。


「、、、ごめん、なさい」

「じゃ、後よろしく」


彼はそういうと部屋から出て行った。


あたしは依頼書のデザインを書いた。

ここに居たら、こんなにもたくさんのデザインを書ける。

あたしは間違っていなかったのかもしれない。

この道を選んだこと、、、、。



彼は、この部屋にフラッとやってくる。

そして、あたしが書いたデザインを手に、また部屋を出て行く。




そんな日々が1週間近く続いた。

依頼書たちの数が残り10枚を切った頃、テレビから彼の名前が聞こえた。


「伊藤哲也、遂に復活」

なんて、アナウンサーの人が言う。


そこにはあたしが書いたデザインが彼の名前で紹介されていた。

それがなんだか悔しくて、、、、。



でも、ゴーストライターになった以上、それが自分の作品だんなんて口が裂けても言ってはいけない。

それのがこの世界の暗黙のルールだ。

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