幸せの天秤
でも、何度洗って消えてくれない。

必死に卓真に抱かれた日のこと思い出そうとしても、伊藤さんに抱かれた記憶が邪魔をする。


「お願い、、、、消えて」

何度も何度も、繰り返す。

あたしの中から卓真との思い出が少しずつ、消されていくようだった。


あたしは煙草を吸う。

卓真と同じ銘柄、、、。

そんな些細なことなのに、今のあたしには落ち着ける。




それから少しずつ、あたしは壊れていった。

伊藤さんはその日から、3日に1回はあたしを抱いた。

その度、気を紛らわせるために彼が持ってくる依頼書で誤魔化す。

少しでも、彼に刃向かおうとすると、殴られたり蹴られたりする。


その恐怖から、あたしは彼の言いなりになるしかなかった。

気付いたら体は食べ物も受け付けない。

いつ彼が入ってくるかわからないこの部屋で、睡眠さえ出来なかった。




そんな生活が1年も続いた。

食べ物を受け付けないせいで体は痩せ細り、立ち上がることさえ時間が掛かった。

暖房も効いているというのに、寒くて常に体が震える。

デザインさえも、書けなくなった。


精神的にあたしは狂っていた。


そんなあたしを見て彼は「デザイン書けないなんて、お前もう用なし」と
開放されたのは、監禁されて1年と14日目のことだった。
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