幸せの天秤
「今度は何しに戻って来たの。何十年も音沙汰なしで」

あの人が、ドアの前であたしを見下ろす。

「、、、別に」

この人に話したところで、意味はないと思った。

「変な子ね。そう言えば、彼に会ったんでしょ」

彼、、、、?

誰のことを言っているのだろう。


「彼って」

「白々しい。あんたの父親よ」

父親、、、?

会ったのだろうか?

2人が離婚して、あたしは父親という人に会った記憶はない。


「会ったの?」

「あんたが一番わかってでしょ。どうだった。兄弟の再会は」

兄弟、、、?

あたしに兄弟なんていない、、、はずだ。

この人は何を言っているの?

「あたしに兄弟なんていたの」

「あんた、会ったんじゃないの。春樹に」

春樹、、、、?

そんな名前聞いたこともない。

「、、、わからない」

「何よ、それ」

そんなことを言われても、わからないものはわからない。


「そうそう5、6年前にあんたのこと尋ねて来た人がいたわよ」

「誰?」

そんなことを聞いたところで、今のあたしにわかるのだろうか。

「あんたの元旦那」

それだけ言うと、どこかに行ってしまった。


元旦那、、、?

あたし、誰かと結婚してたの?

しかも、離婚までしていたの?


知らないことが、次々にわかる。

結婚してたなんて、誰も言わなかった。

どうして、、、?


< 212 / 249 >

この作品をシェア

pagetop