幸せの天秤
「なんか、聞いたことあるような」


あおが何かを思い出しながら言う。


「この業界で聞いたことない奴はいないんじゃないか。
建築家の中でも、結婚式場と言えば「アムール&エール」だからな」


「部長、アムール&エールの意味知ってますか?」


「いや、そこまでは」


部長が、マリアが作ったものを知らない訳がない。

だから意味についても知って居るんだと思った。


知っていたら、何か変わるんじゃないかって、
勝手に変な期待をしていたのかも知れない。


「エールって事は応援?」


桐谷さんが聞く。


「結婚式場で応援とか聞いたことねぇぞ」


あおが突っ込む。



「あたしはデザインが完成した時に名前を付けるんだけど。桐谷さんや青山さんは」



「俺は後だな」

「俺も出来た物を見て、名前を付ける」



「なら、2人とも先に名前を付けてからデザインを考えたら?
幸せって一生答えが出ないの問題じゃない?
だから、もし自分に結婚したい人が出来て、
その愛に望むものとかをイメージしたら形にしやすいかもよ」



そんな些細なことで、発想が変われば、デザインはガラッと変わる。

マリアはいつも依頼内容を見て、最初に名前を付けてから
デザインを始めてたっけ。


あたしの言葉に2人とも考え出す。



「部長なら、どんな意味を込めますか?」



「俺だったら、前に進む為の場所とか」


「それって、幸せ関係あるんですか」

桐谷さんは聞き返していたが、なんとなく分かる。

部長は、マリアが幸せになるには前に進むことだと、思ったんじゃないだろうか。



過去を全部、キレイな思い出に出来たら、
どんなに幸せなんだろうと思った。


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