幸せの天秤
マリアが凄いのなんて、あたしが一番よく知っている。

どんな物件でも、マリアが手がければ誰もが目を引く。

誰もがマリアに憧れを抱き、尊敬のまなざしをする。


「マリア・ブラント仕事出来るなんて、青山の奴羨ましいぜ」

桐谷さんはデスクに戻って行った。


マリアが他の人に手伝いを頼むなんて、ありえないことだ。

部長と一緒に仕事するときでも、他の人が参加するのを嫌がった。


それだけ、あおのデザインにマリアが引かれたということなんだろうか。


マリアにとって、自分だけでは納得出来なくなったということなんだろうか、、、。



それから仕事に身が入らず、雑簡単なミスが増えてしまった。


その度に、桐谷班と青山班の女の子たちから小言を言われる。

そんなあたしを見て、部長に「今日は帰れ」と言われてしまった。


今のあたしが居ても、足手まといだということなんだろう。



「ちょっと、才能あるからって浮き足立ってるからよ」

「ホント、いい気味」

「マリア・ブラウンのお気に入りだから、部長も甘かったんだ」


いつものあたしなら、気にしないそんな言葉でさえ、動揺してしまう。



ふと、母親の顔が浮かんだ。

あの失望したような目で見てくる母親の顔。


「消えて、消えて」と心の中で繰り返すも、離れていかない。


家に着くと、マリアが居て、ご飯を用意してくれていた。


でも、あたしの異変に気付き何も言ってこなかった。

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