幸せの天秤
それから依頼者に頼まれたものを作るんじゃなくて、
その中に自分の意思も加えたデザインを作るようになった。



「レンリの感性って、あたしは好きよ。
1人1人感性が違うから、別の作品が出来る。
同じ物が何個もあってもつまらないもの」と、言うマリアは凄いと思った。


彼女は絶対に1つとして、同じ物を作らない。


「部長ってマリアに似てますね」


「マリアに似てるか。それ、あいつが聞いたら怒られるぞ」


東条部長は楽しそうに笑った。



「片瀬さん、これ他の子たちのチェックして貰えるかな。
それと、今日の午後の会議に君も参加してね」


部長の言葉に「わかりました」と答え、
渡された書類たちを手に自分のデスクに戻った。




書類に目を通す。


こうやって、他の作品に目を通すとマリアが言っていた、
「つまらない」という意味がわかる。


どれも同じデザインに見えてくる。


どの作品もインパクトが無くて、
お手本に自分の好みの色を付けただけ、というか。


昔のあたしも、こんな感じだったのだろうか。





書類から目を離し、彼の後ろ姿に目がいく。



彼も、あたしと同じこの業界で働いていることが嬉しい。


もう関係ないのに、、、。


自分から彼を捨てて、彼を傷つけた。


忘れよう、と思っても、彼の存在が大きすぎて消せない。



彼の隣に居たら彼を傷付けるだけだからって、
自分で決めたことなのに、、、、。


あたしはズルイ。


ホントは彼に嫌われるのが怖くて、自分を守るために彼から離れたのに、
まだ彼を好きな自分を殺せないでいる。

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