幸せの天秤
定時で仕事を片付け、まだ仕事をしている人たちに挨拶をして会社を出た。


今日は病院に行く日。

あの日から、薬のお陰で酷い発作は起きていない。

でも、貰った薬がなくなってしまったこともあり、行かないわけには行かない。




「全然連絡寄越さなかったから、寂しかったよ」

相変わらず、中に入るとそんなことを言われる。


「先生、黙ってればいい男なんだから、あんまり喋らない方がいいよ」

「顔が良いのは知ってる。
でもあえて嫌われるようなこと言っても、付いて来てくれる子が好み」


言い方は嫌みたらしく聞こえるが、
確かに顔だけで寄ってくる人なんか信用できない。


「それに、変に優しくすれば期待させた方が悪いと言われ
冷たい態度を取れば、酷いと言われ、俺って罪な男だぜ」


なんて言うものだから、彼の気持ちに同情するのを辞めた。


「なら、あたしは安心ですね。先生のこと見ても心が動くことはない」

「そう否定されると、逆に燃えるね」


先生は少し挑発的な顔をする。


「それはゆっくり時間をかけて、訂正して貰おうかな。
で、最近はどう?見てる限りだと大丈夫そうだけど」

この人は何処までが本気なのかわかったもんじゃない。

つい数秒前まで、あんなことを言っていたのに、今は医者の顔をしてる。
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