幸せの天秤
「先生は何で、医者になろうと思ったの」

「モテると思ったから」


そう、生き生きした顔を言われる。

本当に彼は期待を裏切らない人だと思った。


「きっかけなんて、くだらないことで良いんだよ。
その後は自分の歩み方でガラッと変わるんだから。
俺はモテたいと思って医者を目指したことを後悔はしてないからね」

「、、そう、、、かもしれないですね」


あたしだって、アメリカに行ったのは母親から逃げる為だった。

それまで、建築家になりたいだなんて思っても居なかったんだから。

でも、建築家になったことは今でも後悔なんかしていない。


それにあたしが手掛けたものを見て喜んでくれる人がいたのも事実。


なら、あたしは建築家になったことは間違いなんかじゃなかったんだ。


「先生でも医者出来てるんだから、あたしにも出来ないことないよね」

「それって、結構失礼なこと言ってないか」


先生は笑う。


「あたし、前向きに独立のこと考えてみようと思います。
もしかしたら、失敗するかもしれないけど
今のあたしにさよなら出来るきっかけになるかもしれないから」


「失敗した時はすぐ俺の所に来ても良いからね。
眠れなくなるくらい、熱い夜にしてあげる」


「笑えませんから」


「相変わらず、冷たい女だねぇ。
とりあえず、今回も薬処方して置くけどあまり飲み過ぎないこと」


「はいはい」と言い、診察は終わった。

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