幸せの天秤
始まり
彼は生まれつき、耳が聞こえないらしい。

だから、何もしゃべらなかったのではなく、しゃべれなかったんだ。

彼は大学を卒業してから、アルバイトをしながら、デザインを書いていたようだった。

彼のデザインを見て、面白いと思った。

今までこんなデザインを見たことなんてない。


誰にも書けない、彼の世界に引き込まれた。




「こんなに素晴らしいものを持ってるのに、何でアルバイトなんかしてるの?
君なら、どこの会社に入っても大丈夫だと思うけど」

彼の才能なら、何処でもやっていけるだろう。


[俺は障害者だから]


その言葉を聞いて、「ごめんなさい」と口にする。


[別に謝らないで下さい。僕、障害のこと気にしてませんから]


強い人だと思った。

きっとあたしが思ってる以上に彼は、大変なことがあっただろう。

なのに、彼は笑っている。

作り笑顔とかじゃなくて、心から笑っている。

そんな彼に興味が沸いた。

どうして、そんなに強く生きれるんだろうって。


「いつから、来れますか?」

気付くとそんなことを口にしている。

彼は驚いている。


[良いんですか?]


「あたしは、君のデザインに惚れたから」

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