芸術的なカレシ
「……よし。
瑞季ちゃん、ボーリングは好き?」
信号待ち、嶋田くんが声のトーンを上げて私を見る。
「ボーリング、ですか?」
「そ、ボーリング。
あと、バッティングセンター」
「……ああ、はい。
ボーリングも、バッティングセンターも、好きです」
「じゃあ、今から行こう」
ブウン。
嶋田くんはアクセルを踏んで、ボルボはスピードを上げる。
「そんな時は、思いきり体を動かすのがいいよ。
僕でよければ、付き合うから」
それからそう言って、笑う。
この人はいつもこうして、隣にいる人を大切に扱うのだろうか。
嶋田くんはコピー機を修理するみたいに、慎重に丁寧に、他人の心を扱う。
男の人って、本当はこうなの?
引っ掻き回すだけの拓とは違う。
大雑把で、人の気持ちを適当にあしらう
拓とは、全然違う。
「ありがとうございます」
その優しい横顔にお礼を言う。
返事をする代わりに、嶋田くんはえくぼを見せてくれた。
こんな人と一緒にいることができたら、きっとすごく幸せなんだろう。
いきなりソファーに色を塗ったりしないだろうし。
私を置いて先を歩くこともない。
映画館でじゃんけんをする必要もないし。
私が明日香と遅くまで飲んでいても、このボルボで迎えに来てくれるのだ。
最終を乗り過ごして歩くこともない。