芸術的なカレシ
「優しいんですね」
そう言うと嶋田くんは、そんなことないよ、と呟く。
「前の彼女には、そういうところが嫌だって言われてた。
優しさとお節介を履き違えてるって」
寂しさを含んだ、ゆったりした嶋田くんの声。
ああ、やっぱりこの人もまだ、彼女が忘れられないんだな、と思わせる。
「そんなこと、ないですよ。
私は、優しさだと思います」
そうは言ってみるけれど、優しさって本当に難しい。
相手によれば、お節介だったり余計なお世話だったりする。
けれどそれだって、愛情があるかないかだけだったりするんだ。
自分の利害ではなく、相手を思いやっているのなら、それは優しさと呼ぶべきだと思う。
「ありがとう」
嶋田くんのありがとうに、私は救われる。
もしかしたら嶋田くんも同じなのだろうかと、考えた。
拓と別れてから自分が無意味な存在になってしまったようで、それが私は何よりも辛い。
拓にとって私の代わりなんていくらでも居る。
例えば紅。
そう思うだけでやるせなかった。
誰かのために自分が今ここに居るのだという自信。
誰もがきっと、それを求めて生きているのかもしれないなあ、なんて。
私は流れる景色を目で追いながら、らしくないことを思ってみたりする。