芸術的なカレシ






「思いきって捨てちゃいなよ」



「うん、でも……これけっこう重い」



「嶋田って人に手伝ってもらえばいいじゃん」



「いや、まさか」



「男って、こういうの頼まれるの嬉しいもんだよ?」



「そうなの?」



「そうよ。
自分の力を誇示したいもんなの」



自分の力を誇示……まあ、それは男に限ったことではないけれど。
嶋田くんの場合は間違いなく、喜んでくれるような気がする。
誰かの力になりたいって、いつも考えてるような人だと思うから。



「うん、じゃあ、頼んでみる」



「いいね、いいね、儀式みたいで!」



「儀式?」



「そう、赤いソファーを生け贄に、古きを忘れ、新しきを知る!
文明開花の第一歩!」



「文明って……」



ワインを片手に饒舌になる明日香。
アイラインが滲んで、ちょっとパンダ目になってる。



古きは拓。
新しきは嶋田くん?

そういう考え方ってどうかとは思うけど……


赤いボルボ。
黒いシート。
優しい声。
温かい手のひら。
可愛いえくぼ。

思い出してみればどれもこれも、悪くないな、と思う。

好きになれるかも。
もしかしたら……
いつかは。

なんて、ワインを口に含みながらぼんやりと考えた。








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