芸術的なカレシ
「お邪魔します!」
「あ、は、はい。
散らかってて、すみません」
30日。
年の瀬も年の瀬。
嶋田くんが我が家に大掃除の手伝いに来てくれた。
まだ知り合ったばかりの人に図々しいかな、と思いつつ電話をしてみると、あっさりと快諾。
しかも案外張り切っていて、ソファーを捨てるための軽トラックまで調達してくれていた。
「助かるわー。
家は女ばっかりだから」
そう言って嶋田くんを迎える母親は嬉しそうだ。
去年までは拓が居てくれたけれど、今年はどうしようかと内心思っていたに違いない。
私も母も高いところは苦手だし、重い物は持てないし。
「いえ、僕にできることなら、何でも言って下さい」
嶋田くんは爽やかな笑顔。
そんな彼を見て、母親は私に目配せしてくる。
「いいじゃないの、彼」
そう言いたいに違いない。
換気扇の掃除。
レンジフードの油取り。
蛍光灯の取り替え。
カーテンの交換。
背の高い嶋田くんは、とても重宝した。
しかも、仕事が丁寧。
大雑把な拓とは大違い。
「いつだったかしら、拓史くんがここの換気扇掃除してて、椅子から転げ落ちたことがあったわよね。
……あっ。
ごめんなさい」
母親の思わぬ失言にも、笑顔を崩さない嶋田くん。
「そうなんですか。僕も気を付けます」
なんて爽やかなんだろう。
拓に爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいくらい。